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いつだっただろうか、先輩が言った言葉が頭に甦り、目の前の絵画が一層愛おしく思える。 この絵が、分かりにくい先輩のラブレターみたいで、今までのことも全部許せてしまいそうになる。 ほら、やっぱりずるいんだ、先輩は。 「作品名はそのままですか?」 「俺の作品のことが俺以上にわかってる水島さんなら、なんてつける?」 「……」 顎を上げて私を見下ろす先輩の顔は、今までで一番イジワルな顔。 赤さをぶり返す私の頬を見て、愉快そうに、ハ、と短く笑う。 「言葉は苦手だからね。一単語や一言じゃ表せないし、やっぱり“無題”だよ」 そう言った先輩のキャンバスへ戻された横顔を見て、先輩らしいな、と思った。 下手になにか言うとまたからかわれそうだから、私はちらりと意味深に向けられた視線に気づかないふりをして「ふーん」と返した。 そうしたらまた、桐谷先輩はおかしそうに笑った。      
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