500人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
母親の顔はおぼろげにしか覚えていない。
そのくらい自分が小さなときに出て行った。
父も祖母もあまり話したがらないので、無理に詳細を聞くことはせずに今に至る。
父親は仕事があったし、祖母がちょくちょく来てくれてはいたけれど、基本、ひとりでいることが多かった。
それでも寂しくなかったのは、オモチャが溢れるほどあったからだとか、お手伝いさんがいたからだとか、そんなことではなかった。
医者だったということもあって多忙を極めていた父親が、それでもその合間を縫って相手をしてくれた時に買ってくれた12色のクレヨンとスケッチブック、そして教えてくれた絵の描き方。
それが、俺の白かった時間に彩りを与えてくれて、そのまま俺の宝物となった。
最初のコメントを投稿しよう!