《番外編》放課後桐谷宅

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母親の顔はおぼろげにしか覚えていない。 そのくらい自分が小さなときに出て行った。 父も祖母もあまり話したがらないので、無理に詳細を聞くことはせずに今に至る。 父親は仕事があったし、祖母がちょくちょく来てくれてはいたけれど、基本、ひとりでいることが多かった。 それでも寂しくなかったのは、オモチャが溢れるほどあったからだとか、お手伝いさんがいたからだとか、そんなことではなかった。 医者だったということもあって多忙を極めていた父親が、それでもその合間を縫って相手をしてくれた時に買ってくれた12色のクレヨンとスケッチブック、そして教えてくれた絵の描き方。 それが、俺の白かった時間に彩りを与えてくれて、そのまま俺の宝物となった。
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