《番外編》放課後桐谷宅

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家に戻ると入れ違いに父親が帰宅していて、今日は出前でも取るかと笑って言ってきた。 いいよ、と言いながら階段を上り、自分の部屋に戻った俺は、ラグの上に置かれたままのスケッチブックを手に取る。 開いたページには、クレヨンで描かれた意味不明な絵。 さっき水島さんが描いていたものだった。 よく見ると、ラグに伸ばされた水島さんの足と俺の足が4本並んでいて、その間抜けな構図に思わず吹き出してしまう。 「ハハ」 新しい今は一瞬後には過去になるし、この場に留めておくことはできない。 それでもやっぱり、こういう一瞬を愛しく思わずにはいられなくて、人は絵や写真や文字に、それを閉じ込め続けていくのだろう。 きっと、今までみたいに自由な絵は描けない。 なにかにとらわれた絵になるかもしれない。 でもそれはそれで悪いことではないのかもしれないと、俺はゆっくりとスケッチブックを閉じた。 -おわり-
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