第1章 馬鹿が勇者になるらしい

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「勇者になりたい」 「ここはベーワ村。温泉でも入ってゆっくりしていってくださいね」 犯罪者Aが話しかけてきたが、私はマニュアル通りに対応する。 「勇者になりたい」 「ここはベーワ村。何もないならサッサと帰ってくださいね。」 「勇者になりたいんだ」 「・・・へんじがない、ただのむらむすめのようだ。」 「勇者になりたいんだ」 私がこの世界に生まれてから12年。前世は神だか何だか知らないが、チカラに溺れ、呆気なく死んだのを覚えています。 空飛ぶ城から、よくわからない雷を飛ばし、高笑いしていた記憶。泣き叫ぶ少女の記憶。手を繋いだ男女に滅びの呪文で視界を奪われ、空から海底に叩き落とされ、最後を迎えた記憶。 アレがチカラに溺れた人間の最終地点なのでしょう。 「とりあえず、謎の自分語り止めてくれるかな?」 私は今生では、あのような哀れな最後を迎えたくないので、チカラを律し、他者を敬う心を忘れないように生きています。 「その他者に俺は入っているのか?まあいい、俺は勇者になりたいんだ」 現段階の私の仕事は至って簡単、村の入り口辺りで、観光客に挨拶をする事です。 天然温泉が有名なベーワ村には、たくさんの観光客がやってきます。家族旅行、商人やギルドの方々、教会の人達が疲れを癒しにやってくる。1年前に王族の方達がお忍びで来たのは、本当にビックリしました。 「勇者になるには、お前のチカラが必要なんだ。これから現れるであろう魔王を討つべく、共に旅に出よう。」 「ここは天然温泉が有名なベーワ村。是非、その腐った考えを洗い流していってくださいね。」 ベーワ村の天然温泉には、こういった精神に異常がある人間にも、精神を安定させる効果があると言われています。 どこかの国の王子様の鬱を治したとか、治していないとか・・・。真偽のほどは分からないが、目の前にいるキングオブ馬鹿には、効果があるかもしれません。 とりあえず、1時間くらい息が出来ないように温泉につけておけば、この馬鹿の脳内のカビも綺麗に落ちるかもしれません。
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