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「多紀さん!」
駐車場で聞き覚えのある声に呼び止められて。はっと振り向くと、バイクが止めてある一画で青羽が手を振っている。
スニーカーをつっかけながら、転びそうな格好で走ってきた。
「……カウンターにいないと思ったら、上がりだったのか」
目の前で息を弾ませる彼の表情が、なんだか眩しい。
「あ、今日は日勤で……多紀さんも帰りですか?」
背中のディバッグをひょいと背負いなおして、彼が訊ねてくる。
「ああ、捜査がひとつかたがついたから、とりあえずな」
「――ガーデニングが、お好きなんですか?」
手に提げていた半透明の書店のビニール袋に、彼が視線を落とした。
「好きと言うわけではないんだが……上手く育たなくて」
「庭ですか?」
「いや、鉢植えなんだ……種を蒔いた」
「なんて花?」
「……バーベナーとか、書いてあったかな」
「本見るよりも、花屋さんに聞いた方が早いんじゃないですか?」
至極当然の質問をされて、口篭る。
「仕事の時間帯が……なかなか合わなくて」
「……奥さんは?そーゆーのやっぱり苦手なんですか?」
いきなりの言葉に、一瞬意味が分からなかった。
青羽の視線の先にはっと気づけば――薬指に嵌っている、プラチナの指輪。
「長期出向で、来ているんだ……宮城から」
何と答えたらいいものか分からず、曖昧な表現を使う。
「あ……そうなんですか」
青羽が釈然としない表情で、それでも頷いた。じゃあと踵を返しかけたとき、彼が口を開いた。
「えっと、良かったら、俺、見てあげましょうか?」
鉢植え、と青羽が続ける。え?と彼の顔を見返した。
「あの、俺、そーゆーの、結構得意なんですよ。庭いじりとか。ペットの世話とか大工仕事とか料理も得意です」
一気にまくし立ててから、あ、関係ないかと呟く彼に、思わず笑みが零れる。
「……でも迷惑じゃ……せっかく早く上がったのに」
「全然っ!早く帰っても別にすることないですし!」
半ば強引に押し切られる形で、俺は彼を官舎に連れて行くことになった。
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