第2章

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「お邪魔しまーす」 入ってきた彼が、物珍しげに室内を見回す。 「こちらに来てからずっと忙しくて……まだ荷物を全部解く暇がなくて」 部屋の隅にまだ積み上げたままの段ボール箱に、青羽の視線がとまるのを見て。なんとなく言い訳がましい説明をする。 「こっちだ」 リビングから続くサッシを開けて外に出て、そこに置いた鉢植えを示す。小さな緑の葉が顔を覗かせている。 「……引越しの荷物の中に種の袋を見つけたから、蒔いてみたんだが。なんだかちっとも育たないんだ」 鉢植えの前に屈みこんだ青羽の、その後ろから声をかける。 「これ、水やりすぎだと思いますよ。根腐れ起こしかけてる」 鉢植えの土を人差し指で押して彼が言う。 「それに日当たりが不足すると花付きが悪くなって枯れやすいんです。なるたけ日に当ててください。水は土が乾いたらでいいから、液体の肥料を上げるといいですよ。ありますか?」 いいやと首を振ると、彼がひょいと立ち上がった。 「俺、ちょっと行って買ってきます」 「いや、そこまで甘えるわけには……」 言いかけた俺の言葉を、彼が笑って遮った。 「すぐそこのホームセンターに売ってますよ。どうせ暇だし、行って来ます」 帰ってきた彼に飲み物でも出そうと思って、インスタントコーヒーぐらいしかないことに気づく 。帰り道で何か買って来れば良かったのにと、自分の気の利かなさに溜息が零れた。 手間をかけてすまないと言うと、気にしないでと笑い返される。 「これで元気になるといいですね」 「……ああ、そうだな」 そう言うと、彼の視線が僅かに外された。その視線が、窓際のローチェストの上で止まる。 この間、引越しの荷物から出したばかりの、写真立て――彼女と写っている、結婚式の写真。 無言で見つめ続ける彼の横顔に、心臓が知らない音でどくりと鳴った。 「……きれいな人ですね」 彼がぽつりと呟くように言った。 「写真うつりのせいかな……なんだか多紀さん、ずいぶん若く見えますね」 「……二十の時の写真だから」 「はたち?」 青羽がびっくりした声を出した。 「じゃあ、奥さんもそれくらい?」 「彼女は、十六だった」 まじまじと見つめてくる彼から、視線を逸らす。 「や……ネツレツですねぇ」 あてられちゃうなぁと笑う彼に、なんとか笑みらしきものを作って見せた。
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