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「仙台の出身なんですか。俺はね、ほっかいどー」
「北海道には行ったことないな」
「いいっすよ、広くて、なんもなくて」
アルコールには強いと言っていた彼のロレツが、だんだん怪しくなってくる。
そういう自分も、少し酔いが回ってきたなと感じた。そろそろウーロン茶か何かにした方がいいかもしれない。
「あ、と」
食事を終えて。テーブルの上に出していた乾きモノのおつまみの皿を、青羽の指が引っ掛けた。ばらりとナッツがテーブルに零れる。
「スミマセン」
「酔ったのか?」
手を伸ばしてくる彼を制して、零れたつまみをゴミ箱に放り込んだ。
「少し横になるといい」
言いながら空になったビールの缶を寄せる。
ふっと視線を感じて顔を上げると、黒い瞳が見つめていた。
その視線が……まるで身体の上を這うようで。
不意に質感を変えた彼の瞳から、目が離せなくな った。
「……青羽くん?」
知らず息を詰めた時、不意に伸びてきた彼の腕に抱きこまれた。
「あお――」
最後まで言い終えることは出来なかった――唇を塞いだものが、彼のそれであることに気づくまで、数秒かかった。
頭の中が真っ白になる。
――これは……なんだ?――彼は、なにを……。
反応できないでいるうちに床に押し倒された。背中に当たった固いフローリングの感触が、はっと思考を呼び戻す。
青羽くん、と出した声が掠れていて、それにまた動揺する。
「させて」
彼の唇から零れた言葉に、身体が硬直した。
「ね、知ってたでしょう?俺の気持ち――分かってて……」
「なに――言って……」
ようやく意味のしみとおってきた彼の言葉。
俺を――抱こうと言うのか?
まさか……そんな、馬鹿なと、その言葉だけが渦巻く頭の中。止めろと抵抗する身体を押さえこまれた。
重なってくる唇から、顔を背ける。
「止めろッ!」
ようやく怒鳴り声らしきものが出る。
「やめない」
間髪入れず、断固とした声で返されて。俺は息を呑んだ。
「止めない――たとえここに、奥さんが来たって」
黒い瞳に浮かぶのは、紛れもない欲情の色。それに視線が絡め取られる。
唇を開いたが、喉が引 き攣るばかりで言葉が出ない。
「……奥さんよりもずっとよくしてあげる」
囁いた彼が、もう一度唇を重ねてきた。
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