第1章

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強盗傷害の容疑者を書類送検した数日後。帰宅途中で例の書店に寄った俺は、入り口で逡巡していた。 あの日、感情のままに彼を怒鳴りつけたのは明らかにこちらの非だった。一言詫びなければと思ったが、何となく顔を合わせ辛い。 店の前でうろうろしている俺を、若いカップルが不審な眼差しで眺めていく。 意を決して自動ドアをくぐった――のに、カウンターに彼が居るのを見た瞬間、足が勝手に方向を変える。 「いらっしゃ――」 彼の声が途切れるのを背中で聞いて、俺は奥の書架へと向かった。 ――なんでこうなるんだ! カウンターから見えない書棚の前に立って、溜息をつく。 彼が絡むと何故だか思うとおりにいかない気がする。身体と感情ばかりが先に動いてしまうみたいで……困る。 それでもここまで来たからには、何もしないで帰るわけには行かなかった。ともかくきっかけを作ろうと、書架から本を一冊取る。 「……これを」 棚から抜いた『優しいガーデニング初級者篇』という本をカウンターに差し出した。 「650円です」 応じる彼の方も固い口調。やはり俺に怒鳴りつけられた事を、面白くは思っていないのだろうか。いつも真直ぐに合わせてくる視線がすっと下に外されるから、唇を噛んだ。 無言で札をトレイに置いた俺の指に、彼の指先が触れて。はっと手を握りこむ。 「……1000円お預かりします」 チン!とレジの引き出しが開く音が、嫌に大きく聞こえた。 「350円のお返しです」 目を伏せたままお釣りを数えた彼が、レシートと一緒にトレイに置く。小銭に手を伸ばしながら 、このままでは何も話せないで終わってしまうと内心焦った。 「……その、この間は、すまなかった」 唐突だったろうか。彼がびくんと顔をあげた。 「……え、と」 「いきなり、怒鳴りつけて、すまない」 彼が何か言うより前に詫びてしまう。 「……いいえ――俺が、考えなしだったんだし」 黒い瞳が俺を見つめて、ふわりと緩んだ。その途端、強張っていた身体から力が抜けるのが分かった。
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