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「手はもういいのか?」
大きな絆創膏だけになった左手の掌。たいしたことがなくて、本当に良かった。
「あ、はい。掠り傷だったし。もうなんともありませんよ」
「……そうか」
良かった、と視線を上げると、彼が妙に幼い表情でこちらを見つめている。
「……あの?」
声をかけた途端、彼がはっと慌てた。
「あっあの、これ!」
レジ下から何やら小さな包みを出してくる。
「この間のハンカチ、血がついてダメになっちゃったから」
代わりですと差し出されて、少し困る。
「いや……ハンカチくらい、気にしなくても」
「そういうわけには行きません。こういうことはキチンとしないと」
あまり意固地に拒むのもどうかと思えて。ありがとうと包みを受け取った。
「この周辺の警備が強化されて、警官の巡回も増えるそうだ……少しは安心できると思う」
「はい、ありがとうございます」
「――青羽くん」
初めて呼ぶ彼の名前。
はい、と彼がちょっとびっくりしたように返事をした。
「……あまり無茶はしないでくれ」
思いついてそう付け加えると、彼が晴れやかな笑顔で頷いた。
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