第1章

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「手はもういいのか?」 大きな絆創膏だけになった左手の掌。たいしたことがなくて、本当に良かった。 「あ、はい。掠り傷だったし。もうなんともありませんよ」 「……そうか」 良かった、と視線を上げると、彼が妙に幼い表情でこちらを見つめている。 「……あの?」 声をかけた途端、彼がはっと慌てた。 「あっあの、これ!」 レジ下から何やら小さな包みを出してくる。 「この間のハンカチ、血がついてダメになっちゃったから」 代わりですと差し出されて、少し困る。 「いや……ハンカチくらい、気にしなくても」 「そういうわけには行きません。こういうことはキチンとしないと」 あまり意固地に拒むのもどうかと思えて。ありがとうと包みを受け取った。 「この周辺の警備が強化されて、警官の巡回も増えるそうだ……少しは安心できると思う」 「はい、ありがとうございます」 「――青羽くん」 初めて呼ぶ彼の名前。 はい、と彼がちょっとびっくりしたように返事をした。 「……あまり無茶はしないでくれ」 思いついてそう付け加えると、彼が晴れやかな笑顔で頷いた。
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