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はいはいと気の無い返事と共に久助さんが山爺を見る。それにしてもよくよく変わり者の多い老人ホー……いや、優子さんと増田施設長を思えばそれもそうかと納得する。
山爺「今度は若い人だね。よろしく頼むよ」
久助「あぁ、任してください。さてさてここからは私マジシャンMr.Qにおまかせ下さい。取り出したるはこのシーツ、山爺さん、ちょっと失礼」
山爺「なんじゃこれ……ふお!?」
久助さん、Mr.Qは山爺さんにシーツを被せると不敵な笑みを浮かべた。
Mr.Q「ワン、ツー、スリー!!パチン」
優子「!?」
ジョン太郎「!?」
Mr.Q「ベットに寝るから褥瘡になるの?なら簡単よベットに寝なければ良いじゃない」
優子&ジョン太郎「………………………………………」
山爺「え?なにこれ。ヤダ怖い!!?降ろして降ろして降ろして!!?」
呆然と見つめるボクと優子さん。ちょっとオネエな感じの悲鳴をあげる山爺の前でMr.Q、久助さんは爽やかに笑った。空中浮遊のマジックだった。その種を言えば透明な机だったり、遠近法だったりするのだが……
優子「なぁ久助、これは結局ベットで寝てるんじゃないか?」
久助「浮いています。マジシャンにはそうしか言えませんね」
優子「介護士の久助、これで褥瘡は防げるのか?」
久助「えぇ、定期的に体交すれば……あれ?」
優子「この手品バカがっ!!」
ジョン太郎「なんデスか、この茶番は……」
呆れる僕、そして
山爺「あーん、もう、降ろしてよー!!」
めっちゃオネエな感じに叫ぶ山爺を置いて案件は白紙に戻った。
後に分かった事だが、久助ことMr.Qは手品バカ、というには確かに適切な人で、手品を始めるとテンションが上がりすぎてしまうらしい。とはいえ、彼の手品は娯楽の少ない老人ホームではとても人気みたいだ。今日も彼は口や耳、上司の引き出しなど至る所からトランプを吐き出している。
そして、これで良かったのかは分からないが……
優子「褥瘡治ってやがる……」
夜間介護士によれば山爺はあれから時々うなされ、浮く、浮く、やだんと言いながら自分で寝返りをうつようになったらしい。
ジョン太郎「それってトラウマじゃ……」
優子「んん、ただな、本人が……」
山爺「なんだ、今日も久助ちゃんはおらんのか?また浮かして欲しいんじゃがなぁ」
本人がそう言うならイイのでショウか?ボクにはまだ介護が分かりません。
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