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「ママっー!」 居間で4歳の息子と遊んでいた筈の娘が、キッチンで洗い物をしている私のところに泣きべそをかいてやって来た。 …大体は予想がついている。 濡れた手をタオルで拭き、もうすぐ2歳になる凛を抱きかかえ、横の居間でおもちゃの剣を振り回していた誠の前に立つ。 「こらっ、凛を泣かしちゃ駄目でしょ!」 「だって、ぼくのけんをとるんだもん」 叱りつけるが、息子からは全く反省の色が窺えないので、空いてる左手で誠の頭にげんこつを落とす。 「誠はお兄ちゃんでしょ!剣くらい貸してあげなさい!」 誠は頭を押さえながら、涙目でこちらを睨みつける。 簡単に泣かないし、謝りもしない。 呆れてため息をつく。 …全く、私に似て頑固で困る。 私が35歳になった年の7月21日、私は子供たちを連れて実家に帰ってきていた。 実家から割と近いところに家があるので、こうしてよく五十嵐家に訪れる。 勿論、たまたま実家から近いところの家を買ったわけではない。
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