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そんな母も60歳を機に仕事を辞めて、今はゆっくりと隠居生活だ。 今は孫を可愛がるのが、生き甲斐らしい。 といっても、まだ弟の晃は実家にいるので、母の肩の荷は下りてはいない。 まあ、私としては母一人でこの家に住むよりは、例え手がかかる馬鹿弟だとしても、いてくれた方が安心だ。 「ただいま」 子供たちと一緒にテレビ画面をぼんやり観ていると、玄関の方から母の声が聞こえてきた。 思ったより早く帰ってきた母が居間に顔出すと、それに気付いた子供たちが観るのをやめて、すぐさま母のもとへと駆け寄っていった。 そんな子供たちを母はぎゅっと抱きしめて、その傍らで私に何かを差し出した。 それに気付いた私は立ち上がり、母からそれを受け取る。 「何か灯宛ての手紙みたいよ。差出人は書いていなかったけど」 母はそう言うと、買ってきてあるおもちゃがあるからと、子供たちを引き連れてさっさと居間の奥にある部屋へと行ってしまった。
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