第1章

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初めて彼を見たのは、 東京に赴任してきた翌日だった。 官舎へ帰る途中に立ち寄った大型書店。 文庫本の棚を眺めていると、 子供の泣く声が入り口を潜ってきた。 視線を廻らせれば、 5、 6歳くらいの女の子が若い女性に手を引かれている。 書店のエプロンをつけたその女性が、 女の子の前に屈んだ。 「お母さんとはぐれちゃったの?」 「えーと、 お名前は?」 「苗字、 言えるかな?」 女性店員の質問には泣きじゃくりが返ってくるだけ。 迷子かとそちらに歩きかけた時、 若い男の店員が歩み寄ってきた。 「どしたの?迷子?」 彼の問いかけに女性店員が顔を上げる。
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