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警官隊に男を引き渡して、
彼を振り返る。
嬉しそうな笑顔で迎えられてひどく腹が立った。
ずきりと自分の手に走った痛みは、
彼の左の掌に滲む血が呼び起こした幻痛だ。
「――あの」
「馬鹿ものッ!」
自分でも驚くような声が出た。
びっくりしたのだろう。
黒い瞳を大きく見開いて彼が硬直した。
「ナイフを持っている相手に、
不用意に近づくんじゃないッ!」
唖然としている彼の手を取る。
ナイフの刃先が掠っただけのようだ。
傷はたいして深くはない。
そこに視線を落とした彼が、
あ、
と目を見張った。
傷を負っていることに、
やっと気づいたらしい。
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