第1章

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無言で札をトレイに置いた俺の指に、 彼の指先が触れて。 はっと手を握りこむ。 「……1000円お預かりします」 チン!とレジの引き出しが開く音が、 嫌に大きく聞こえた。 「350円のお返しです」 目を伏せたままお釣りを数えた彼が、 レシートと一緒にトレイに置く。 小銭に手を伸ばしながら 、 このままでは何も話せないで終わってしまうと内心焦った。 「……その、 この間は、 すまなかった」 唐突だったろうか。 彼がびくんと顔をあげた。 「……え、 と」 「いきなり、 怒鳴りつけて、 すまない」 彼が何か言うより前に詫びてしまう。 「……いいえ――俺が、 考えなしだったんだし」 黒い瞳が俺を見つめて、 ふわりと緩んだ。 その途端、 強張っていた身体から力が抜けるのが分かった。
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