【土曜の晩】

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「…それにしても…」 と、不意に私は職場の事を思い出し、ため息をついた。 「全く… とんでもないヤツが入社してきたものだな…」 私が課長を勤める販売促進課には、今年の春に三人の新人が入社してきた。 三人とも若い男性。 いわゆる『ゆとり世代』の若者達だ。 最近、テレビなどで『ゆとり世代』の若い人達が育児放棄したり、ちゃんとした仕事に就かずぶらぶらしているなんて話を耳にする事が有るが、 私はある特定の世代の人間全員のキャラクターを『ひとまとめ』にする傾向は当然、間違っていると思う。 私を含めてどんな世代にも真面目で一生懸命に育児や仕事に頑張る人間がいれば、その一方で、そうでない人間だっている。 どんな世代にも人それぞれに個性が有り個々の考え方を持っているのだ。 現にうちの課に入社してきた若者も皆、仕事に対して懸命に打ち込んでくれているし、私が彼らと同じ年齢だった頃と比べても、よっぽど彼らの方が考え方もしっかりして礼儀正しく常識も有る。 「しかし…」 である。 一人だけ… 『特殊』と言うか『異彩』を放っている新人がいた。 彼の名前は、小林君。 彼は、根っから明るい性格でよく職場で冗談を言ったりしているが… その一方で、周りの他の社員達は内心で小林君の事をあまり良く思っていないようだった。 どうも、彼は何に対しても考え方が『あまい』のである。 同期の新人や先輩社員達が懸命に残業をしている中「今日、見たいドラマが有るんですよね」と周りを全く手伝わずに平気な顔をして退社する。 そりゃまあ、私だって決して仕事で遅くまで会社に残る事が良い事だとは思っていない。 早く帰れる時は、さっさと帰って体を休めた方が良いに決まっている。 小林君も自分の仕事を定時で終わらせての退社だ。 その点に関しては、私も文句は無い。 しかし、彼は難しく面倒な仕事を一切やらず簡単な雑務しかやらないから定時で退社できるのだ。 だから、他の社員より早く仕事が片付くだけの話であって、決して小林君が『他の社員より仕事ができる』とか『人一倍、手際が良い』訳ではないのである。 それに、見たいドラマが有るのなら、前もって録画予約でもしておけば良いのではないだろうか…。
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