気持ちの行方~プロローグ~

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胸元に咲くアザが疼く。 常人には見えない華の形を成すアザだ。 生きていく程に年を重ねるほどに大きくなっている気がすると紫乃は思った。 雪華を封印してもこのアザは消えなかった。 これは人への憎しみや嫌悪、怒り、悲しみに呼応する。雪華の呪詛だ。 紫乃の幼い頃の罪の証。 人は生きている中で常に罪を重ねていく。 妬み、怒り、悲しみ、憎しみ、怠惰。 殺生 動物の肉を喰らい、自然を汚す。 そして人は常に同胞によって寿命を削り取られている。 添加物塗れの食品 機械で作られた温かみのない食材 心も身体も、錆びていく……。 そんな錆びた時代に生きているのだ。 アザも消えなければ呪詛であるアザが巨大化していくのも無理はない。 『アザが疼くのか?』 その声の主である雪華の黒いぬばたまの髪がふわりと揺れる。 紫乃からすれば見慣れた存在だった。 紫乃は静かに目前に突如現れた少女を見据えた。 封印を施されてから、しばしばこうやって意識だけ紫乃のもとに飛ばしてくるのだ。 雪華の本体は眠っている。紫乃が五頭龍の力により眠らせた。 紫乃は雪華の質問には答えなかった。 『紫乃、お前は何でも1人で抱えこむのだな。 それ故お前の心の中に蓄積された孤独が溢れる。 その孤独が蛇や狐を縛り付けるのだ。 人間界では現実逃避と言うのだったな。 そして浮世離れしたその雰囲気は隠せずだだ漏れだ。 それは更に人々から隔離されていく。』 雪華はクスクスと笑いを浮かべる。 『やはり生きている人間の思いが強いのだな。 蛇神もお前を好いてるようだが、あれはあやつ自身の意思ではない。 お前の意思によってそうさせられているのだ。 お前の愛されたい、理解されたいという強い思いがお前を彼奴らに愛させる。』 「うる…さい。」 紫乃は眉間に皺を寄せた。拳を固く握り締める。
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