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ある日、島津さんと僕は、スリ事件の捜査のために新宿駅の山手線ホームで張り込みを行っていた。
ホーム上には、スリの通報をしてきた一般女性もいて、島津さんと僕は、その一般女性からの合図を待っていた。
スリの犯人を逮捕するためには、現行犯の現場を押さえるしかないことは、経験の浅い僕でも知っている。
張り込みを開始してから1時間経過しても犯人とおぼしき人物は現れず、一般女性も疲れが見えてきていた。
その時、僕はふと島津さんの横顔を見ると…目をつむって寝ていた。
(なんだ、この人は…)
僕は慌てて島津さんの肩をたたきながら小声で、
「島津さん!」
と声をかけて呼び起こした。
すると島津さんは、
「犯人は、どうした?」
と呑気な質問をしてきたので、僕は、
「何言ってんですか?
まだですよ!」
と返事をした。
その時、一般女性から、犯人の男を指し示す合図があった。
僕は緊張しながら男に近寄って、一緒に電車に乗り込もうとすると、島津さんが突然、男の腕を捕まえた。
僕は、
(この男は、まだ何もしていない!
スリは、現行犯逮捕じゃないのか?)
と疑問に思った。
「なにしやがんだ!」
と叫んだ男は、島津さんの顔を見て、
「おやじさん…」
と驚いた顔をしながら、まるで島津さんを知っているかのような口調で返事をした。
「お前、まだ悪戯な商売してるんじゃないだろうな?」
と男に対して、島津さんが問いただすと、
「してませんよ、おやじさん!
俺を信じてくれ!」
と男が答えた。
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