よく寝る上司

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この日、僕は島津さんに誘われて、居酒屋に飲みに行った。 この時、今回の事件について、島津さんからどう思うか質問されて、僕は感じたことを正直に話した。 「もし、浅井 遥さんの自殺の真相が解明されなかったら、浅井 遥さんの深い悲しみが、樋口 直樹君に正確に伝わらなかったと思います。」 島津さんは、うつむいたまま反応がなかったので、僕は島津さんの顔を下から覗き込むと…目をつむって寝ていた。 (疲れてるのかな…) と想い、少しこのままにしておくことにした。 少しすると、島津さんが目を覚まして、 「犯人は、どうした?」 と呑気な質問をしてきたので、僕は、 「今、張り込み中じゃありませんよ!  ここは、居酒屋です!」 と返事をした。 すると島津さんが、 「確かに若林が言うように真相が解明されなかったら、浅井 遥さんが浮かばれなかったかもしれねぇな!  でも俺は、余計なことをしちまったかも…と思ってるんだよね!」 僕は、 (あれ…聞いてたんだ!) と思いながら、 「余計な事って、何故ですか?」 と質問すると島津さんが、 「俺が真相を暴いたばかりに、樋口 直樹君は、その罪を一生背負っていくことになっちまったような気がするんだよ!」 と正直な気持ちを話してくれた。 僕は、刑事という職業の奥の深さを垣間見た気がした。 島津さんは、なぜ係長のまま昇進しないのか…疑問に思っていた僕は、島津さんに正直に質問してみた。 「島津さん、お気を悪くされたら申し訳ありません。  島津さんは、なぜ昇進しないのですか?」 すると島津さんは、正直な気持ちを話してくれた。 「昇進するには、手柄を立てなきゃならないだろ!  そもそも1人で手柄を立てるのは難しいし、自分が昇進するとなると他の誰かを蹴落とすことになるからね!  それに俺は、人の上に立って部下を指導するのは、向いてないよ!  俺は、あこがれの刑事になることができたし、現場で奮闘するのが性に合っているよ!」 僕が、 「そうですか?  島津さんなら十分できそうな気がしますが…」 と言うと、島津さんが、 「俺のことは気にせずに、若林は上を目指せよ!」 と言ってくれた。 やはり島津さんはベテランの刑事で、僕は、島津さんから学ぶことがたくさんあると感じた。
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