第1章

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 こうやって振り返ってみると笑えるんですけど、その時は本当にムカついていましたからね。今年の夏って猛暑だったじゃないですか。私の部署って一度クーラー壊れたんですよ。業者が直しに来るのが3日後とか言われて皆38度越えの中で仕事していたんですよ。皆卓上扇風機とか団扇とか持ってきて対処していたんですけど、川原さんは休憩時間にスプレーを全身にかけていたんですよ。「それ、コールドスプレーですか? 涼しそうでいいですね。それに懐かしいですね。部活とかやっているときに使ってましたよ」って話しかけたんです。川原さんにしては考えたなと思ったんですよ。そうしたら褒められたと思ったんでしょうね。にやにや笑いながら私にスプレーを見せてきたんですよ。「涼しいよ。 涼香ちゃんも使う?」って。ちょっと使わせてもらおうかなと思ったん私が馬鹿でした。だってそのスプレーに思いっきり「凍殺! 殺虫! 凍らせて確実に殺す!」って書いてあるんですよ。殺虫剤ですよ。むしろ、人に向けないでくださいって注意書きまでされているんですよ。嬉しそうに私にスプレーを向けてきたので思いっきり蔑さんでやりましたよ。「私は川原さんと違って人間なのでやめてください」って。川原さんの恐ろしいところは本気で殺虫剤と気がついていないところですからね。あの男あんなに大きく殺虫って書いてあっても凍るっていう文字を見ただけでこれは涼しいはずだって思ったらしいですよ。本当に馬鹿。  バキッ。  あ、でも川原さんも恋には真面目だったんですよ。一度本気で恋をしたらしく、半年間で10キロ近く痩せて筋肉をつけた事があるんです。毎日ジムに通ったらしくて、その時は私、本気で誉めたんですよ。凄いじゃないですかって、やればできるんですね。ってその恋を応援しようと思ったぐらいです。だから聞いたんですよ。誰が好きなんですかって? そうしたら、この前会社のイベントに遊びに来ていた伊藤さんの娘さんですって。その場で殴り飛ばしましたね。だって伊藤さんの娘さんってまだ12歳ですよ。気持ち悪い。可愛いと思うだけならまだしも、40代のおっさんが小学生に本気にならないでくださいよね。
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