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落ちたプレパラートは、切片が上の状態で水槽の中に沈んでいた。  慌てて落とした標本を拾って、無事か確認する私に、 「ダメにした?」 そう言って、山崎が私の手からそのプレパラートを横からそっと奪い取った。 光にかざして確認すると、 「とりあえず、いいよ、平気そうじゃね?」 そう言って、乾燥台の上に乗せた。 「申し訳ありません…」 割れなかったのと、残りの浮かんでいる切片の上に落ちなかったのは不幸中の幸いなのだけれど、 顕微鏡でみたら、ゴミやキズが、ついてしまっているかもしれない。 結局は、やり直しさせてしまうかもしれないと思うと、まだ動揺が治まらない私に、 「大丈夫だから、続けて。」 そう言ったあと、口角をあげて、一度頷く顔が、観たことないほど優しく見えて、泣きそうになるのを堪えた。
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