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その奇妙な店は、果てがなかった。
僕らの街には七不思議とまではいかないが三つの奇妙なコトがある。
一に『流れない川』。二に『止まらない信号機』。そして『果てのない店』。
『 流れない川』はその名のとおり水が流れていかない。厳密にいえば流れてはいるが流れがあまりにも遅いため人には感知できないらしい。
流れない川の流れを目に焼き付け流ことができたとき。
人とは違うモノをみたとき、人間は人として社会に殺されるのだった。
街角に一つの信号機があった。その信号機のある交差点は交通が絶えない。しかし、今だ誰もその信号機の前で立ち止まったことはなかった。なぜか立ち止まることができないのだ。
なぜ立ち止まれないのか。
それは、自分の進む道にはいつも青が映えていたから。
だから人は止まらない。
『止まらない、信号機』。
僕の知る、よく知る街は今日は霧に包まれていた。そして僕は今日きみを知りに来た。天を仰いでも見えないその果てを知るために。
その店は果てしなく高くそびえていた。
『果てのない店』。
君は...。
僕はその戸に手をかけ、そっ、と押した。
戸は、開かなかった。
「バタン」
店は、その果てを見せることのないまま倒れていった。
君は、張りボテ。
僕は今、己の誇りを、見苦しい見栄を、その人生の大きな障害を押し倒したのだ。
『 壁』。君は、壁?
人間には『壁』があるらしかった。
超える『壁』。
越えていくための『壁』。
そして。
魅せるための取り繕い、『壁』。
大きく魅せるための『壁』、見栄。
僕は今、君を倒した。振り払った。
人は皆、『壁』を知り、その『壁』に立ち向かうらしい。
でも...。
「はじめから、壁を作らなければ立ち向かう必要もないのになぁ...」
僕はため息混じりにそう呟き、また、『果て』を探し始めるのだった。
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