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* 2日目
これまでも寿命がもうあと少ししかありませんという人間に会ったことは結構ある。ここまで身近な人間は初めてだったが。
自分がそのことをどう受け止めているのかよく分からない。
不思議な心に太鼓とラッパのファンファーレ。
カオスだ。
「何、その腑抜けた顔」
「いや、ふと思ったんだけど。お前、これまで何で勉強してきたんだ?」
ものすごく失礼なことを言っているという自覚はあった。だが、聞かずにいられなかった。なぜなら、こいつは今、俺の目の前で2週間後にある校外試験の対策問題集を解いていたからだ。
「なんでって言われてもねえ…。みんなやってるから、てのが大きいと思うよ」
「余命6日でもか?」
「惰性だね。人生なんてみんな惰性で生きてるようなもんじゃん」
そう言って嶺は再び問題集に視線を落とした。
「お前そんな諦観できるほど強かったっけ?」
「ふふん」
嶺は勝ち誇って鼻を鳴らした。
「余命6日だから」
理由になってねえよ。
嶺はそうかあ、と言いながら問題を淡々と解き進める。
「死んじゃうのはとっても惨めかもしれないけどさ」
そこまで言って嶺は背中を反らせ、骨を鳴らした。言葉を編んでいるのかもしれない。
「生きてるってことはかっこ悪いことかもしれないよ?」
「……過激な言い方だな」
俺は肩を竦めながら言った。
風人、あと65年だっけ?その時には分かると思うよ。
嶺は静かにそう言った。
なんだか、嶺が俺の手の届かない、とても遠いところに行ってしまったかのように感じた。
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