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「は、華ちゃん。いくら聡次さんだって、そんな無茶な話は聞き入れられないよ」
ところが、 声を上げたのは聡吉の方だった。穏やかで口数の少ない聡次だったら、何とか説き伏せられると睨んでいたのに、出しゃばりでお調子者の聡吉が口を挟んできたら、
まとまる話もまとまらない。
あてが外れて華子は落胆した。
「聡吉の顔を見てやってくださいな。嬢ちゃんの腕がどうのと言う訳じゃありません。
ただ、嬢ちゃんのうっかりを治さないと、座長だって大仕掛けの奇術を教えるわけにはいかないでしょう」
聡次の助言を満足そうに聞き、聡吉も笑顔で頷いている。
「……そうよね、そうでしょうね」
頭ではわかっているが、せっかちな性格やうっかり癖は、そうそうに治るものではない。今ですら聡次と聡吉のやり取りを聞きながら、華子は居ても立っても居られない気持ちでいた。
すぐにでも父親である聡一に、『磔の術』を習いたいと懇願したい。しかし、一番弟子の聡次ですら、まだ『磔の術』の手伝いをするのみ。ここ一番の大舞台での主役は、鶴天斎聡一だけなのだ。
一応分別はあるつもりだが、娘の自分は聡一の跡継ぎになれる身の上だ。それならば……
他の座員の誰よりも、少しばかりは贔屓して貰えるはずだろう。遠慮のない華子は姑息にもそう考えていた。
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