華子、幽霊騒動に巻き込まれる

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「な、なんで、この私が幽霊探しなんかに、行かなくてはならないのですか、お父様?」  耳を疑いたくなるような父親の申し出に、華子は素っ頓狂な声を上げた。 「本来ならば私が出向く用件だが、今回ばかりは都合が悪くてなぁ。それに、聡次や他の座員たちは文明座での下準備もある。ましてや、あいつらには私の代わりを務めるには、些か荷が重過ぎるだろう。そうなると、適役はお前しか考えられないのだよ、華子。先方は娘のお前なら腕は確かだと、喜んでくださったのだがなぁ」  勘が鋭く疑り深い華子を説得させるには、こうやって露骨に煽てるのが一番の手だった。 「お父様の代わりを務められるのは、この私しかいないねぇ……」  そう聞かされると、満更悪い話でもなさそうだ。 父親の代わりに一番弟子の聡次ではなく、娘の自分が選ばれたという点が、華子の自尊心をくすぐっていた。 「それに、『壽屋』といえば横浜でも一、二と言われている大店だ。政財界の重鎮で羽振りの良い当主のことだから、もてなしもさぞかし豪華なものだろう。どうだろうか、華子。悪い話ではないと思うがね」
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