華子、幽霊騒動に巻き込まれる

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 酒も博打も一切せず、これといった道楽もない。舞台にひとたび上がれば、饒舌に口上をまくしたてる聡一だが、私生活では寡黙で無骨、その上不器用な男であった。  頭の中が奇術一色の父親には、どうせ志乃が喜びそうな名案は思い浮ばないだろう。お節介にも華子は紅葉見物を提案してみた。自分という邪魔する存在がいない、二人きりになれる千載一遇の時だからこそ、聡一と志乃には水入らずに楽しんでもらいたかったのだ。 「富岡八幡宮で紅葉見物かぁ。たまにはそれくらいの余裕を持ってみるのも良いかもしれないなぁ」 「そうですよ、座長。紅葉見物なんて何年ぶりかしら。もしも時間が許すなら、箱根辺りにまで足を延ばせないかしら? もしかしたら、箱根の方が紅葉も綺麗かもしれませんよ」  聡一のそばにいられるだけで幸せだというような、志乃は欲のない女だ。それが今回は二人きりで旅ができるとなって、普段よりも気持ちが高揚しているようだった。 「長期興行での疲れが溜まっていることだし、のんびり温泉につかるのも良いねぇ」  あれこれと楽しそうに計画を立てながら、気分が華やぐ二人の仲睦まじい姿があった。こうやっていつまでも三人で仲良く暮らせたら……華子はそう願わずにいられなかった。
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