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「それが……あぁだこうだと難癖を付けては、一向に前へと進まなくて……」
「嬢ちゃんの減らず口は座長譲りだ。その辺りはお前もわかっているだろう?」
「そんな殺生なぁ……」
こんな調子だから唯一披露できる水芸の完成度も、向上できない有様だった。
「ねぇ、それよりも……あの件はどうなりました? お父様に磔の話はしてくれました?」
「は、華ちゃん。その件は……む、無理だよ。今の華ちゃんには無理だって! 今のままのうっかりの性分じゃあ、絶対に『磔の術』は取得できないってば!」
聡吉が顔を青くして、大慌てで反論した。
華子のうっかりで兄弟子の聡次が、大事な手指に怪我を負った。もしも、華子があんな小難しい『磔の術』を習い始めたら、今度は死人が出るかもしれない。
「私だって天才奇術師・聡一の血を引いているのよ。きっと、上手くいくわよ。もうはりつけられる側にはうんざりなの。ねぇ、お願いよ。一番弟子の聡次さんから、お父様に頼んでくださらない?」
愛らしい笑顔を浮かべ、華子が聡次の顔色を伺った。
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