1.なるほど、私は死んだわけだ

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 私が並木秀により部屋を追出だされることになった経緯がここにある。  世の恋人たちがイルミネーションの前で目をぐりっと向き口をクイっとしながら自撮りしているクリスマスイブのことである。  毎年恒例となったKFCのパーティバーレルを手に、買い物から帰った私が見たのは、VR用の無骨なヘッドセットを頭につけ、重量感あふれる最新の尻形USBオナホ向かってせっせと腰を振る若き並木秀の姿であった。  心からの失望と情けなさで頭の中が真っ白になった。  声も出せなかった私の気配にどうやって気づいたのか、秀が突然ヘッドセットを取り、私のほうを振り向いた。  感情を失った私の目と、感情むき出しの秀の目が合う。 「お、お前! ちょっ、いきなり入ってくるなよ! 俺の部屋だぞ!」 「いや、そこ、リビングなんだけど、てかなにしてんの? キモいんだけど」 「な、何でもねえよ! なんでそんな早く帰ってくんだよ! 出てけよ!」  下半身を隠しながら私に迫る秀。  玄関まで引く私。てか怒るならパンツはいてからにしろよ。威厳もへったくれもない。 「もう、出てけよ!」  秀はびっくりするぐらいの力で私を玄関の外へ突き飛ばした。   そしてバタン! ブツン!   バタンは秀が玄関を閉めた音、ブツンは私の堪忍袋の緒が切れた音である。
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