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祐磨は大学でコンピュータ・サイエンスを専攻し、卒業後、警察庁のサイバー犯罪対策課に職を得た。一年後、繭子はIT系のQエントロピーという会社に就職した。
子供のころインプラントの手術を受けてから、パレントによる意志疎通は、二人にとっては所与の能力のように思われた。
十五年前、二千五十年に身体への通信機器のインプラントを認める法律が制定された。これに伴い、電気通信事業法、医療法、個人情報保護法など関連法規も整備された。以降、機器のインプラントを希望するものは誰でも、簡単な手続と手術でパレントを、あたかも感覚器官のひとつのように、体内に取り込むことができた。
この通信システムができたとき、祐磨の両親は夢のようなシステムだと思い、祐磨にパレントをインプラントした。しかし、はじめは彼の父親の久磨も母親の冴子も手術を躊躇った。声も出さずに話ができるのは、たしかに便利だが、そこになにか空恐ろしさを感じていたのだ。だが、祐磨が中学に通いはじめ、友達が家に遊びに来るようになると、冴子は奇妙なことに気づいた。
「祐磨、どうしたの、おとなしいけど大丈夫」
祐磨たちが部屋で遊びはじめて暫くたったが、声も聞こえず、心配になった冴子は部屋に顔をだした。
「大丈夫だよ、僕たちゲームしてるから」
祐磨と二人の友達は大きな画面に映る三次元映像を食入るように観ながら、ゲームに熱中していた。その姿を見て、彼らは会話をすることなく、パレントで直接コミュニケーションをとっているんだ、と冴子は気づいた。
「祐磨たちって、すごいのよ」
冴子は、昼間彼女を驚かせた祐磨たちの遊びの風景を思い出していた。
「すごいって、なにが」
仕事から帰ったばかりの久磨は要領を得なかった。
「あの子たち、口もきかずに遊んでるの、ずーっとよ」
「静かでいいじゃないか」
「そういうことじゃなくて、あの子たち頭で話してるみたいなの」
「頭で?」
「そう、声を出さなくてもパレントで意志疎通が図れるみたいなの」
「ふーん、パレントって、便利いいんだ」
「便利なんていうもんじゃないわ、頭と頭で意志が通じるなんてすごいじゃない」
「本当にそうだと、すごいな」
久磨は信じていないような表情だった。
「本当よ。ねえ、祐磨、今日どうやってお友達とお話してたの」
冴子は手招きで祐磨を呼んだ。
「うん、よくお話できたよ」
「お話するとき、声ださなかったけど、どうしてたの」
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