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その奇妙な店は、どこか古めかしくも風変わりな佇まいの店作りで、何とも不思議な雰囲気に包まれていた。
水沢拓実がこの店を見付けたのも、単なる偶然からである。
この日の会社帰り、拓実は何となしにいつもと違う道を歩いて帰ることにした。
ちょとした気まぐれである。
いつもと違う道、いつもと違う景色、いつもと違う空気感、それら全てのものが拓実の気分を高揚させた。
もしかしたら、平凡な日常に何か少しでも刺激が欲しかったのかも知れない。
そんな拓実の気持ちに添う形で見かけたのが、この奇妙な店という訳だ。
夕暮れの暗がりの中、店内からこぼれる明かりが何とも幻想的にその店を彩る。
そんな不思議な雰囲気に魅せられて、拓実は自然と店内へ足を踏み入れていた。
「カランカラン」ドアを開け中に進むと、入店を知らせる小さな鐘の音が鳴り響く。
「いらっしゃいませ!」
涼やかな通る声が、小気味良く拓実を出迎える。
店の外観とは違い、接客に現れた女性はごくごく普通のウェイトレスの格好をしている。
ところが、ウェイトレスの後ろに見える店内はテーブルもイスもなく、只々ガランとして殺風景なものであった。
「あれ?ここは…」と、拓実がいいかけた時、ウェイトレスらしき女性がニッコリとほほえんで話し始めた。
「『思い出ナビゲーション』通称“思い出ナビ”へようこそ!」
「思い出…ナビ?」
聞き覚えのない言葉に、拓実は一瞬眉をひそめる。
「はい!当店は、お客様が忘れかけて、どうしても思い出せなくなってしまった大切な時間や場所、そういった記憶の奥底で迷子になっている思い出へと、お客様ご自身を案内して差し上げる場所でございます」
女性の説明は、端的かつ要点を押さえた非常に分かりやすいものだった。
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