『宝島』

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「もう少しだな。この岩場か。どうにかなるか」  岩場に全員を集めると、座る位置を確保した。端に征響と秋里が座っている。  再び風が強まると、視界が無くなった。いつも家の中で嵐が過ぎるのを待つが、外ではこんな状態であったのか。あまりに風が強く、持っていたタオルも吹っ飛んでいた。座っていても風が吹くと、転がりそうであった。 「印貢、捕まっていて。転がると危ない」  藤原にしがみ付くと、どこか安心していた。 「取りあえず、俺は親父をぶん殴る」  その気持ちは分かる、俺も佳親を殴りたい。 「それから風呂に入って、メシ、それから寝たい」  風で言葉は消える。でも、藤原の言葉は分かる。これはキャンプではなく、遭難という。 「藤原と一緒で良かった」  藤原は手で俺の頭を抱えた。 「俺も」  風で隣の会話も聞こえないので、人は居ても二人の世界のようになってしまった。藤原は親友で、一番信頼している。でも、キスするくらいには、恋愛でもあった。 「嵐、去ったな」  雨が小降りになっていた。風も穏やかになった。 「移動するか」  船の迎えを待つならば、浜に戻った方がいい。でもその前に、洞窟に置いてきた米が気になる。 「征響、浜に降りるだろ。俺、藤原と洞窟の米を確認してから合流する」 「分かった」  征響は、団体をまとめながら移動を開始していた。  俺は藤原と、洞窟へと向かってみた。 「山の形が変わっていないか?」  歩き出すと土砂崩れで、地形が変わってしまっていた。洞窟を捜そうとしたが、洞窟が無かった。 「ウソだろ……」  洞窟に土砂が流れ込み、全く無くなってしまっていた。 「移動していなかったら大変だったな……」  波よりも、土砂崩れのほうが危険であったか。洞窟で留まらなくて良かった。 「米ないな……」 「問題は、そこではないだろ」  でも写メで残すと、記念撮影もしてしまった。ここには、二度と来たくはない。  そこから山を下ると、浜が見えてきた。波はまだ荒く、船は出ていないだろう。  竹藪があったので、竹を幾本か切ると、タケノコを見つけてしまった。 「生でもいける」  季節外れであるが、タケノコが美味しい。見つける限りタケノコを取ると、再び浜を目指した。  今度は嵐で折れていたが、みかんの木を見つけた。まだ実は青いが、どうにか食べられる。 「いける」  かなり酸っぱいが、減った腹にはおいしく感じる。
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