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島の地図がポケットに入れたままになっていたので改めて見ると、小さなバッテンが微かに残っていた。この島で火をどうするのか、まだライターなどが無かった。俺は火を起こすが、それを知っていただろうか。
「藤原、このバッテンに行ってくる」
「迎えが来るかもしれないから、あまり遠くには行かないほうがいいけど。分かった」
気になるのだから仕方がない。
「俺が一緒に行くよ」
征響が焼き鳥を食べながら、歩いて来ていた。俺が一人で歩くと、どこまでも行ってしまいそうで面倒なのであろう。
「良かった。印貢だけだと心配で」
藤原も、そういう面では俺を全く信用していない。
山の葉を集めてワカメを乗せると、鍋で貝の砂抜きをしておく。夕食までには、帰って来られるだろう。
山を歩き出すと、台風の爪痕なのか、あちこちで倒木していた。土砂崩れも多く、道というものは全くない。
よくこんな島に来て、鍋などを隠したものだと思う。
倒木の上を歩き、岩の上を歩く。
「弘武、身軽だな」
それは征響に言いたい。征響は、天狗の所以なのか、木から木へ飛んでいるように歩いていた。
ここまで土砂崩れが発生するなど、誰も想定はしていなかっただろう。木が倒れ、地盤が緩んでいるので、再び雨が降れば、又土砂崩れが発生する。
今度は山にも、海にも逃げ場がないということだ。
やっとバッテンの場所に到着すると、その場は無事に存在していた。祠のような形で石が組まれ、その中には大きなリュックが置いてあった。
リュックを取り出すと、中を確認してみる。
パンパンに入ったリュックは、幾重にも防水加工がしてあった。見た目よりも軽く、片手でも持てる。
しかし、中身を確認するとため息だけしか出ない。
「……花火だ」
多分、楽しませようと思ったのだろう。島を探検し、自分で食料を調達する。最後に花火で遊べとでも考えたと推測される。
しかし、この状況で花火を見ると、むしろ楽しさよりも殺意を覚える。
「佳親……殺す」
征響も相当に腹が立ったらしい。
「まあ、でも持ち帰りますか」
今夜は花火でもするか。
再び来た道を戻っていると、やっと日が射してきた。これで、薪が乾いてくれれば、夜通し起きて船を待っていることにする。
「とんでもないキャンプだな」
征響はリュックを背負ってくれた。俺が半分持とうとすると、征響は首を振っている。
「弘武は食べ物でも探せ」
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