『宝島』

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 征響と俺は、三年しか経過していない兄弟で、今まで長く二人きりという経験はない。いつも秋里の通訳があったので不自由していなかったが、征響も結構無口であった。 「征響、親父ってどんな人だったの?」  俺にとっては、祖父になるのかもしれない。歩きながら聞いてみると、征響は渋い顔をしていた。 「無口」  それは、征響に似ているということであろうか。背丈ほどもある、大きな葉があったので、幾枚か採るとまるめておく。これは皿になりそうであった。 「頑固で無口。あんまり話さなかった」  征響は母親の記憶がないだろう。俺が話そうとすると、征響は俺を睨んだ。 「俺は俺、母親がどんな人だったかなんて、興味ないよ。でも、弘武を生んでくれて少し感謝したよ。佳親がよく笑うようになった」  恨みだけではなくなったと、征響は説明してくれた。  浜に帰ると、リュックの中身の花火に皆が黙ってしまっていた。  帰りたいばかり考えて、ここで楽しむとは思ってもみなかった。 「ま、花火もいいよね」  藤原は、貝でスープを作っている。 「そうだな」  藤原も四区のカリスマと呼ばれる。征響とは違ったタイプであるが、まとめ方は上手い。征響が出来ると言ったら出来るように、藤原が大丈夫と言えば大丈夫の気がする。  藤原も征響も精神的に強く、周囲を元気付けてくれる。 「じゃ、キャンプファイヤーでヤギでも焼くかな」 「だから、ヤギは止めろって」  でも、さっきから馬鹿にしたようにヤギがこちらを見ているのだ。食料の少ない俺達を横目に、ヤギが草を食べていた。 「さてと、葉があるからカップでも作るか」  折り紙の要領で、葉でカップを作ってゆく。重いものは入れられないが、ワカメスープくらいならば、どうにかなるであろう。 「貝は沢山あるから、食べていいぞ」  中学生が群がって、貝を順番に食べていた。 「印貢、早く食べないと無くなるぞ」  子供を優先と思っているのに、俺も混じれというのか。多少プライドが傷ついていると、高校三年生チームは、花火のセッティングをしていた。 「ほら、一緒に食べよう」  藤原は、ちゃんと別に征響達の分を残している。藤原は、結構、細かい気配りはあった。 「でっかい貝だろ。それにおいしい」  藤原が葉のカップに貝を詰めてくれた。 「おいしい」  藤原が作ると、何でもおいしい。藤原は、俺が食べているのをじっと見つめてから、自分も食べ始めた。
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