『宝島』

15/33
前へ
/33ページ
次へ
「……ここに来て良かったかな。印貢の笑顔を独り占めしたのは、久し振り」  もしかして俺は、笑いながら食べているのか。真剣な表情をしてみたが、無駄だと止める。 「俺も、藤原とこんなに長く一緒につるんだのは、久し振りだよ」  藤原とつるんでいると、とても楽しい。何をしていても楽しいし、何もしていなくても楽しい。 「イチャつくな」  征響が枝を投げてきた。 第三章 波音と二十四時間  天神区の天狗と、四区の不良は長く互いを認め合ってきた。暴走した四区を止めるのは天狗の役目で、四区は天狗を崇拝に近く思っている。でも、それは天狗が天狗であればこそで、天狗が弱かったら四区に倒されてしまう。  天狗は対となる四区のチームを持っているが、俺は、それを死霊チームにしてしまった。藤原チームには、征響が付くことになった。  死霊チームは四区で最強にも近く、暴走したら止められない、そういうチームには同じ暴走型の俺がいい。統制チームである藤原には征響が付いたほうがいい。  それは分かっているのだが、互いに寂しい。俺は藤原個人の天狗ではある。それは、周囲が特例として認めてくれたからだ。  夕方になると、波が静かになった。次の食べ物を用意するか、やや迷う。これだけ波が静かならば、船が出せる筈だ。  浜辺に座っていると、波音が絶えず響いていた。こんなに波音を聞き続けたのは、初めてだろう。 「よし、花火をするか」  場所が分かり易いように、木を組み上げ、キャンプファイヤーのように作っておく。夜の灯台の代わりであった。  花火用の蝋燭があったので、そこに火を付けると、海に向かって花火を上げる。 「……打ち上げ花火が多いね」  どういう選択なのか、筒形が多い。でも、線香花火などがあったら、怒りに火を注ぐようなものだ。 「あ、線香花火」  ここで線香花火はないだろうと思いつつも、火を付けてしまった。それも全部一気に火をつけた。 「火の玉」  バチバチと線香花火と、打ち上げ花火が火を付けていた。 「親共をここに置き去りにして、体験させたいよね」  藤原も線香花火に怒りを感じているようだ。 「でも、将嗣さんと佳親では、イチャついていたら朝だったで終わりだよね」 「そうかもな」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加