『宝島』

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 そこで藤原が、名前の関係というのを教えてくれた。将嗣は佳親(よしちか)が好きで、息子にヨシという言葉を入れたらしい。藤原の名前は、由幸(よしゆき)であった。  でもその前に、佳親は自分の弟を命名していた。将嗣(まさつぐ)のマサを取って、征響にしているのだ。 「弘武という名前は、誰が付けたのだろう」  母親しかいないので、母親であろうか。 「弘武は佳親の祖母が弘子で、家族の中でも天神でも最強に強かったのでつけたと聞いているよ。最強の天狗と言われたじいさんも、奥さんには敵わなかった」  そうなのか。名前というのも、繋がっているものなのか。 「印貢、足の上に線香花火を落とすなよ」  この線香花火、ボトリと落ちる。 「さてと、やってはイケない遊びをするか」  花火の火薬を取り、調合してゆく。火力を強めたところで、掘った穴に入れる。爆竹もあったので、それも加えてみた。 「危ないから、隠れていろよ」  良い子は絶対に真似をしてはいけない。穴に火を入れると、身を隠す。  激しい爆発音がすると、穴から火花が散っていた。空にもバチバチと何か散っている。 「なかなか……」  征響が走って来ると、俺を蹴り飛ばしていた。 「危ないから止めろ!」  蹴り飛ばしも危ないであろう。 「あ、船が来ている」  花火を止めると、薪を燃やす。手を振ってみたが、見えているかは分からない。 「もしかして、夜ではダメかな」  船がダメなら、ヘリでも出して欲しいと思っていると、頭上でバラバラとプロペラのような音がした。上を見るとサーチライトで地面が照らされた。 「皆、無事か?」  頭上のマイクから聞こえてくる。マイクの声は聞こえても、返事が聞こえるかは分からない。地上には、ヘリまで届くマイクはないのだ。 「無事!」  怒鳴ってから、手で丸を作ってみた。  ヘリコプターからロープと紐が降りてきた。まさか、このロープに捕まって登れと言うのだろうか。 「小さい子から順に救出する」  ヘリから降りてきた救助隊員が、俺の肩を掴んだ。 「俺は、小さくない。中学生から先」  何故、俺を掴むのだ。中学生をまとめると、順番に並ばせておいた。 「何か食べ物をください。腹が減っています」  この分では一回では運べないだろう。次の便を待つとすると、かなり長くなりそうであった。  救助隊員は食料を持っていなかったのか、俺に頭を下げた。 「ごめんな」
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