『宝島』

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 あっと言う間に日は登るが、この夜に差す光が一番きれいにみえる。 「藤原、起きたの」  朝が弱い藤原が、こんなに早朝に起きるとは思わなかった。 「弘武がいなかったから、飛び起きた。やっぱり、危険な事をしていたか」  藤原が飯盒を棒で叩いていた。 「雨が止んだから、土砂崩れの心配もなくなったしね」 「でもな、山に一人で入るな」  米が炊けたようなので、飯盒を逆さまにして蒸らしておく。もう少ししたら、皆を起こしてもいい。温かいご飯を食べたい。 「夜明け前の消えてゆく星もいいよな」  藤原が女性に人気という理由が分かる。言葉がロマンチストであった。藤原には姉が二人いるので、基本的には女性にも優しい。 「ヘリが来るかな?」  これだけ海が穏やかならば、船が来るであろう。 「ヘリコプターに乗りたかったか?」  俺は正直に言うと、乗りたくなかった。あんなに乗り心地の悪い乗り物はない。 「いいや。豪華客船のほうがいい」  救助に豪華客船は来ないだろう。それに、ここは浜であるので、水深が浅い。小型船でも難しい深さであった。 「征響、ご飯炊けた!」  歩くのも面倒なので叫んでみると、征響が起きてきて井戸で顔を洗っていた。倉吉と秋里も、並んで歩いていた。 「湯沢?」  どうして湯沢が起きて来ない。慌てて小屋に行くと、真っ青な顔の湯沢が腹を抱えていた。 「征響!湯沢の調子が悪い!」  征響を呼んだが、秋里が走ってくると救急箱を持っていた。 「どこが痛い?」 「腹……」  湯沢の身体が冷え切っていた。 「印貢、湯を沸かせ。生水では危ない」  薬はあっても、どれを飲ませたらいいのか分からない。 「腹が痛いのか。どこら辺が痛いかな?」  湯沢は青い顔のまま、立ち上がると草むらへと走っていった。 「下痢ね」  食あたりであろうか。  沸かした水を冷ますと、ゆっくりと薬を飲ませる。 「おかゆ、作るからな……」  いつも俺は湯沢に心配かけてばかりいる。たまには俺も役に立ちたい。 「緊張と寒さも重なったからね。俺が見ているから、皆はご飯食べて。ん?……どこからご飯が出たの……印貢、山へ行ったな」  秋里に頭をグリグリされてしまった。団体行動なので、行く先を告げろと言っている。行方不明になった場合は、その一言が重要になるという。  すっかりいじけて、ご飯をおにぎりにしながら一口食べる。 「おいしい」
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