『宝島』

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 でも藤原に殴られても、半歩下がっただけの将嗣もすごい。将嗣は殴られると分かっていても、避けずに、やや笑っていたようにも見える。 「台風に土砂崩れ、最後に遺体付きだぞ」  将嗣は深く頭を下げる。 「想定外でした」  どちらが親か分からない。  さてと、俺が佳親を見ると既に頬が腫れていた。  征響は、佳親を無視して船に乗り込んでいた。 「俺は殴らないの?」  佳親が抱き付こうとしたので、俺は走って逃げる。 「もう季子さんに殴られているでしょう」 「まあね。平手打ちね。それで、終わりかと思ったら、反対側もきた」  季子に、必ず連れ帰って来なさいと、佳親と将嗣は正座で怒られたそうだ。だが、予約していた船は港の損傷で出られず、救助の依頼をしたがそのヘリコプターでも俺は戻って来なかった。  慌てて他の港から船をチャーターして来たところ、浜辺には誰の姿もなく、遺体だけあった。 「流石に、慌てたよ。何かあったかなって」  その時点で慌てたのか。その前に台風も、土砂崩れもあった。湯沢も倒れている。 「まあ、征響と弘武だから、どうにかするかなって思ってはみたけど……流石に遺体はないかなって思ってさ」  湯沢は食あたりで、既に病院から出て食べまくっているという。  藤原が将嗣を殴る気持ちが分かる。この親には常識がない。どれだけ苦労して、生き延びていたと思うのか。 「兄さん、大変でしたよ……」 「でも、面白かったろ」  やはり殴りたい。ぐっと我慢すると、船に乗り込んだ。藤原も将嗣を殴ってスッキリしたのか、笑顔で船に乗り込んできた。  俺もスッキリとしたいが、やはり佳親は殴れない。仕方がないので、口喧嘩に留める事にした。 「兄さん。俺は、こんな親は嫌ですので、絶対に兄さんという以外に呼びません」  佳親はやや意味を考え込んでいた。 「……父さんとかパパとかでは呼んでくれないの?」 「そうです」  佳親は驚愕した表情で、将嗣を見る。将嗣は慌てて目を逸らしていた。 「親父呼びでもバカ親父でもいい!弘武!呼んで欲しい」 「嫌です」  佳親は力なく座り込んでいた。将嗣もかける言葉を失っている。 「……非道。佳親さんの一番気にしていることをズバリと刺したね」  藤原が、佳親を憐れむように見ていた。 「まあ、元々、兄さん以外では呼ぶつもりもないしね」
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