『宝島』

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 土砂も崩れたし、森も彷徨った。 「征響、背中流すよ」  スポンジで丁寧に洗ってみた。征響の背中の怪我を洗うと、時折、征響が唸る。 「弘武、洗ってくれるなんて珍しい。どうした?そっちも怪我は多いな」  まあ、古傷も多い。 「こっちは古傷ばかりです。今回では怪我していません」 「これ銃弾か?」  ストレートに聞かれたのは初めてであるが、銃弾の跡であった。他にナイフで刺された跡もある。 「そうです」  内戦の地にいたのだから、怪我も多い。殆ど治療もしなかったが、どうにか生きている。 「まあ、男だからな。傷は気にしていないよな」  でも、季子に見られたら泣かれそうだ。 「はい」  湯船につかり窓を見ると、外は露天風呂であった。露天風呂に行こうかと、立ち上がると倉吉が露天風呂で何か騒いでいた。どうも、猿だと気付かずに話しかけていたらし。 「返事くらいしろよ!」  猿に言っても無理であろう。  露天はいいが、猿とは入りたくない。 「出よう」  風呂から出ると、フカフカのタオルが置いてあった。着替えは、ジャージであったが、これはサッカー部のものであった。  誰のジャージだと縫い込まれた名前を見ると、俺の名前であった。俺は、バスケ部から移籍して、まだサッカー部の揃いのジャージは注文していなかった。もしかして、季子が購入したものか。  やや袖と丈が長く、俺が成長するのを願っているようだ。ジャージをまくって着ると外に出た。  やっと文明のある場所に出たので、相澤に連絡ができる。携帯電話を持つと、あれこれ遺体の写真を送ってみた。  庭のベンチで涼んでいると、相澤から返答がきていた。 『一報が遺体ですか。季子さんに泣かれて、あれこれ尽力しましたよ』  相澤は刑事であるので、季子も頼りにしたのだろう。  でも遺体の素性を知りたい。  素性を教えて欲しいとお願いしてみると、相澤がデータを送ってくれた。  迷惑をかけたようなので、相澤にお土産を購入しなくてはならない。旅館の売店に行くと、饅頭しか売っていなかった。下駄を履いて外に出てみると、付近に商店は見当たらなかった。でも、酒蔵のようなものが見えた。  相澤は高校に潜入しているが、本当の年齢は俺よりも十歳上で、成人している。土産は酒でもいいのだ。
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