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内山 理奈は、東タと働いていた仲間であった。東タと理奈は、親友のような間柄で、周囲には恋人以上と言われていた。
東タには双子の弟がいて、兄貴は殺されたと怒っているという。弟は、大手の会社で、営業職をしていた。弟の岩崎 湖南(いわさき こなん)は兄と一卵性であるのに、性格は全く異なり、営業を天職としていた。東タは技術屋肌であったという。
『この島に俺の全てを隠した。最後に憎く愛しい君に全てを捧げる』
東タのメッセージは犯人がいるのならば、犯人に向けられているのであろう。全てというのは、殺しも含めた全てであるのか。
部屋のベランダの下を佳親が走って行った。今度は季子が、反対側から走って来た。今日はよく走っていると眺めていると、庭にいた藤原が手を振ってくれた。
「弘武」
「藤原、お土産買えたか?」
俺の声に、佳親と季子が庭に出てきて、ベランダを見上げた。
「弘武!」
どうやら俺を捜していたらしい。
第五章 星に近い浜
「弘武、どこに行っていた!風呂から出たら姿が見えなくて、あちこち探していた」
佳親が俺を旅館の食堂まで連行する。
個室になった部屋に、俺の食事が残されていた。
「相澤さんに土産を買いたかった」
「それならば、買ってあります」
希子も怒っていた。
「でも食事、一緒に食べましょう」
希子も佳親も、俺を捜して食べていなかった。
でも刺身であるのか。何か、違うものが食べたかった。海系のものは、食が進まない。
「ごちそうさま」
食べ終わって立とうとすると、季子が手を掴んだ。
「ほとんど食べていないわよね」
「……家で温かいメシが食べたいです」
刺身ではなくて、温かいものが食べたい。煮物でもいい。
「そうよね。ずっと寒かったものね。温かいご飯、家に帰ったら沢山あげるから」
希子が泣いていた。沢山ではなくてもいいし、俺は自分でご飯を炊く。
「藤原の所にいます」
俺はまだ食べている佳親を背に、食堂を出た。
藤原の部屋は一階で、離れを使用していた。将嗣だけかと思ったら、藤原の母親、つまりは将嗣の妻も来ていた。
「弘武君、かわいい!」
「ご無沙汰しております。あの、由幸はどこにいますか?」
藤原は、隣の部屋で彼女と長電話の最中であった。
藤原の邪魔をしても悪いので、俺は庭に出てみた。今日は家に帰る気配がない。
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