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「父さんって呼んで、お願い!」
「まだ酔っぱらっているだろう。本当に刺すぞ!」
俺の二升瓶が、空になって転がっている。
「弘武、本気ではないだろう。できないよ」
この状況でも眠っている、父親達もすごい。
「それにね、お宮参りも七五三も、こいのぼりもできなかったっていうのがさ、悔しいよね……」
「でも母さんは、俺の成人式を見られませんでしたよ」
佳親がふと真顔になった。
「まだ、孫でのチャンスがあるか。母さんは夢を繋いでくれた」
では離して欲しいと思うが、酒臭いまま俺に頬ずりしている。
「由幸、助けて。これを剥がして!」
「佳親さん、絡むのも最強ですからね」
藤原が、力技で佳親を剥がしてくれた。
「じゃ、佳親さん弘武は貰ってゆきます」
「まだ、嫁には早いだろう!それに俺は孫が見たい!」
藤原は勝ち誇ったように、俺を食堂に連れて行った。
「朝食だよ」
長い事、まともな食事がなかったように思えた。ご飯と味噌汁の簡素な食事であったが、身に染みる。
「大好きだよ、弘武」
藤原が、正面に朝食を持ってきて座った。垂れ目の藤原は、笑顔になると二倍優しい。
「俺も」
朝食の納豆もいいが、俺はネギがないと食べられない。ネギを捜すと、真っ赤になった藤原が、照れを隠そうとあたふたしていた。
照れるならば、最初から口説かなければいいのだ。
「返事が来るとは思わなかった……」
島でも藤原がいれば安心できた。それは、征響と同等であり、全く違った。
「由幸、いつもありがとう」
いつも、俺を気にかけてくれて本当にありがとう。支えてくれてありがとう。
それとバカ親父達にも感謝はしている。あれこれあったが、藤原と一緒にいられる時間を作って貰えたおかげで、話すよりも深く互いを認識できた。俺は藤原の天狗で、藤原を守り止める役目だ。相手が、最も信頼できる藤原で良かったと思う。
「こちらこそ」
再び、親父たちがやってくると、騒ぎが起きる。俺は、相澤の土産を佳親に買わせ、どうにか怒りを収めた。
『宝島』了
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