『宝島』

7/33
前へ
/33ページ
次へ
 台風のピークは過ぎていない。今、この状況で、台風のピークはどうなるのであろうか。風が吹き込み、雨も吹き込んでくる。体温が下がっているが、薪は少ない。 「服が濡れていたら、脱いで乾かせ」  こう雨が吹き込んでいたら、薪で乾かすにも限界がある。  全員を竈の周辺に固め、体温を温存してみたが、やはり風が強すぎて体温が上がらない。 「征響……」 「弘武、そんなに不安そうな顔をするな。ここにいることは佳親が知っているのだから、嵐さえ凌げばいいだけだろ?心配ない」  征響が自分の分のチョコを俺に渡してきた。俺が断ると、無理やり口に入れてくる。  秋里は計画的に薪をくべていた。そこで、飯盒でご飯も炊いている。  秋里は、時折ノートの類も火にくべていた。薪が湿ってしまい、燃えにくいのであろう。 「弘武、今ナイフは何本持っている?」  征響は俺を抱えるように座っていた。背が温かく、かなり眠くなる。 「十本くらいでしょう」 「ゲ」   小さく何か聞こえたが、言ったのは倉吉であった。 「弘武、眠っていいぞ」  嵐が去ってからが長いと、征響が言う。ウトウトとしていると、木の折れる音が響いていた。時計を見ると、九時であった。  目を開くと、藤原は起きていて外の方角を見ていた。波が荒かったとして、ここの高さはどのくらいであったであろうか。  俺は立ちあがると、懐中電灯で岩を見た。  ここの岩には浸食した跡がある。波で削られた跡があるということは、ここまで波が来たことがあるということだ。 「征響」  俺は征響を起こすと、一緒に外に出てみた。この洞窟は浜からかなり離れていたが、波は近くまで迫っていた。  今がピークだとしても、ここに波が来る可能性は高い。 「山に登りましょう」  移動するのも危険であったが、波に飲まれる事も怖い。満ち潮の時間が分からないので、台風のピークだけでは波が予測できない。 「そうだな。これはまずい」  簡単な荷物だけまとめると、全員で洞窟の外に出た。既に波が、洞窟の寸前まで迫ってきていた。 「登りますが、焦らなくても大丈夫です」  滑って落ちる方が怖い。 「俺、この山に登っていますので、先頭にいます。しんがりを、征響と秋里先輩、お願いします」  中央を倉吉にお願いした。 「藤原!」  先頭に藤原も呼ぶ。足場が悪いうえに、風と雨で視界がない。岩場はあまりに滑るので、木々の間を登る事にした。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加