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台風のピークは過ぎていない。今、この状況で、台風のピークはどうなるのであろうか。風が吹き込み、雨も吹き込んでくる。体温が下がっているが、薪は少ない。
「服が濡れていたら、脱いで乾かせ」
こう雨が吹き込んでいたら、薪で乾かすにも限界がある。
全員を竈の周辺に固め、体温を温存してみたが、やはり風が強すぎて体温が上がらない。
「征響……」
「弘武、そんなに不安そうな顔をするな。ここにいることは佳親が知っているのだから、嵐さえ凌げばいいだけだろ?心配ない」
征響が自分の分のチョコを俺に渡してきた。俺が断ると、無理やり口に入れてくる。
秋里は計画的に薪をくべていた。そこで、飯盒でご飯も炊いている。
秋里は、時折ノートの類も火にくべていた。薪が湿ってしまい、燃えにくいのであろう。
「弘武、今ナイフは何本持っている?」
征響は俺を抱えるように座っていた。背が温かく、かなり眠くなる。
「十本くらいでしょう」
「ゲ」
小さく何か聞こえたが、言ったのは倉吉であった。
「弘武、眠っていいぞ」
嵐が去ってからが長いと、征響が言う。ウトウトとしていると、木の折れる音が響いていた。時計を見ると、九時であった。
目を開くと、藤原は起きていて外の方角を見ていた。波が荒かったとして、ここの高さはどのくらいであったであろうか。
俺は立ちあがると、懐中電灯で岩を見た。
ここの岩には浸食した跡がある。波で削られた跡があるということは、ここまで波が来たことがあるということだ。
「征響」
俺は征響を起こすと、一緒に外に出てみた。この洞窟は浜からかなり離れていたが、波は近くまで迫っていた。
今がピークだとしても、ここに波が来る可能性は高い。
「山に登りましょう」
移動するのも危険であったが、波に飲まれる事も怖い。満ち潮の時間が分からないので、台風のピークだけでは波が予測できない。
「そうだな。これはまずい」
簡単な荷物だけまとめると、全員で洞窟の外に出た。既に波が、洞窟の寸前まで迫ってきていた。
「登りますが、焦らなくても大丈夫です」
滑って落ちる方が怖い。
「俺、この山に登っていますので、先頭にいます。しんがりを、征響と秋里先輩、お願いします」
中央を倉吉にお願いした。
「藤原!」
先頭に藤原も呼ぶ。足場が悪いうえに、風と雨で視界がない。岩場はあまりに滑るので、木々の間を登る事にした。
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