『宝島』

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 今回は山を登るのが目的ではない、波を凌げればいい。  しかし、山自体が小さいので、どこまで行けばいいのか分からなかった。 「印貢、ピークを凌ぐことだけでいい」  風の方向を見て、避けながら進んでみた。足場が崩れるので、ゆっくりと上に進む。下を見ると、島が一回り小さくなっているように見えた。浜辺にいたのならば、全員、この荒れた海の中であっただろう。  山頂も雨の合間に時折見える。そこまでは行かなくてもいいにしても、どこで休むかが問題であった。 「印貢、波はここまでは来ない。だから、この高さで全員が居られる場所を探すだけでいい」  藤原が、そっと俺をサポートしていた。  俺は巨大な岩陰を見つけると、上の土砂の様子を確認した。水は滝のように落ちてゆくが、岩の方角には来ていなかった。岩の上には土砂は少ないので、崩れる心配もない。 「ここで台風が過ぎるのを待つ」  全員が到着するのを待ってみたが、全員どころか、俺と藤原以外が来ない。  前ばかり気にしていて、後ろが付いて来ていない事に気が付いていなかった。 「印貢、動くな。確かに先ほどまで後ろはいた。雨が強かった時に、視界が無くなっただろ。止まっただけだ」  ここで動くと、俺たち二人が孤立するという。その通りなのだが、手が震えてしまった。 「印貢、大丈夫。皆無事だよ」  子守歌のように、幾度も藤原が大丈夫と呟いてくれる。 第二章 二人ぼっち  嵐の中で、藤原と二人きりになってしまった。雨で視界はなく、皆がどこにいるのか分からない。自分達の居場所を知らせる術もなかった。 「ククク」  藤原が笑っていた。この状況で笑う事があるのだろうか。 「……何かおかしいか?」  全身ずぶ濡れで、体温もない。嵐で波に囲まれて、いつ終わるのかも分からない。 「弘武でも怖い事があるのだなって。弘武が怖がったのは初めてみた」 「それで笑うか……」  嵐が怖いのではない。仲間を失う事が怖いのだ。 「……ニコルと居た時、仲間と別れると、次は会えるか分からなかった。皆死んでいった」  別れる時は、怖くて仕方がなかった。皆、いなくなってゆく悪夢ばかり見た。 「ごめん、からかって」 「いいや。あっちには征響もいるし、秋里先輩もいる。ここより、あっちの方が安全だよな」  それで落ち着くと、親父たちへの報復を考えてみた。これは、余りにも酷すぎる。一歩間違えば、全員死亡であった。
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