プロローグ

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「それにしても、静かですね……」  シェリーは、望遠鏡の側面を指先でトントンと軽く叩く。少しすると、側面が鈍く光り、目の前にあるガラス張りの窓が左右に分かれて開いた。何故そこが開くのかといえば、緊急時の脱出口にするためなのだが、シェリーは日頃からよく開けていた。吹き付ける夜風が気持ちいいからだ。  ただ、この日は普段とは少し様子が違った。一度開けたはずの窓が、何故かひとりでに閉まってしまうのだ。また開けても結果は同じ。左右から開いたと思ったら、またすぐに左右から閉まってしまう。シェリーはその場で何度となく窓の開閉を繰り返したが、やがて諦めたように溜め息をついた。 「帰ったら、お祖父様に報告して、様子を見てもらわなきゃ、ですね。今日、言わないといけないことはそれくらいかしら」  夜風に当たるのは、歩きながらにしよう。シェリーはそう考え、立ち上がった。念のため、窓がきちんと閉まっているかを確認しようと、前方に歩いていく。  片手で窓に触れた。――そう、シェリーは確かに、指先でガラスに触れたはずだった。それなのに、彼女の指先は空を切った。シェリーは驚いて目を見開く。 (そんな、確かに今、閉まっていたはずなのに……)  運の悪いことに、窓が閉まっていると思い込んでいたシェリーの身体は、突然の出来事に対応出来なかった。前に進みすぎた彼女は、そのまま、何もない空間に一歩を踏み出してしまったのだ。当然彼女はバランスを崩し、そのまま真っ逆さまに落ちていく。飛ぼうにも、羽を背中に入れてしまっていたので、出すのが間に合わない。
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