星降る夜に

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 リュウは言葉を返さず、代わりにフローラの横顔をちらりと見やる。それからまたすぐに視線を前方に戻すと、ズボンのポケットに両手を入れた。 「俺の真似などしなくていいから、素直に楽しんでこい」 「えっ」 「確かに今のお前は医務室長……隊長と同等の立場だが、ここに部下はいないだろう。ティナとバートも中にいるはずだし、顔を見せてくるといい。こんなところで立っている役目は、お前には似合わない」  フローラは、一見おとなしそうに見えるが、元来はあちこち動き回りたい性格である。彼女がギルドで治癒術を使うと決めたのは、依頼さえ受ければ自分で飛んでいけるからだ。今回だって、渋るリュウを必死に口説き落として、シェリーの救出に同行してきた。彼女の歩みを止めるのは、何か違うとリュウは思う。  一方、フローラはすぐには動かず、うーん、とその場で首を捻る。少し考えた彼女は、リュウの腕を両手で引いた。 「おい、待て」 「待たない。リュウ君、ここに置いていったらすぐ着替えに行っちゃうでしょ。せっかくちゃんと王子さまなのに、もったいないもん。その格好、もう少し長く見ていたいな」  小首を傾げて、少し照れくさそうに笑うフローラ。曰わく、現場ではそんな余裕はなかったから、ということらしい。柔らかく見えて、意外と押しが強い彼女に今回も言いくるめられたリュウは、腕を引かれるまま、自分も輪の中心に入っていく。  そういえば、またタツキの姿が消えていたが、まあすぐ戻るだろうとあまり気に留めなかった。
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