海のにおい

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「ありがとうございました」

からんからんとドアが鳴り、お客さんが店を出る。
お札をしまいながら、時計に目をやる。2時54分。2秒でレジ口を閉める。5秒でテーブルに向かい、5秒でどんぶりをトレーに乗せ、10秒でテーブルを整える。10秒でどんぶりを流しに持っていき、水の張った中に沈める。10秒でどんぶりを洗い、洗浄機のトレーに置く。

レジのところに戻って時計に目をやる。2時55分。小さくガッツポーズを決める。この時間の店内に客はほとんどおらず、少し高い位置に備え付けられたブラウン管のテレビが、深夜のお笑い番組を流し続ける。

「京香ちゃん」

テレビでは二人の芸人とアナウンサーが並んで歩いてなにやら相談事をしている。テレビから目を離すと振り返った先にスキンヘッドにひげ面の少し強面の中井さんがいた。

「はい」
「もう人いないし片付け始めていいよ」
「わかりました」
「今日はどうする？」

とっさに冷蔵庫の中身を思い出す。たしか、作り置きの麦茶といつ買ったのかわからない卵。それと焼肉のたれ。

「えっと、いただいていきます」
「じゃあ、片付けよろしく」
「はい」