第3章

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東武蔵大学は吉祥寺にあった。 遥香は、少し黄ばみ始めた風景の中、入り口の煉瓦造りの門を懐かしく見つめたが、今は感傷に浸っている場合ではない。 彼女は相談する人物の居るはずの研究室に向かった。 遥香は、少し強くなり始めた夕陽の光を手で遮りながら文学部棟に入ると、最上階である4階一番奥の、とある研究室のドアをノックした。 中から返事がして、遥香はドアを開けた。 「お?遥香君じゃないか!」 遥香が顔を覗かせると、すぐに嬉しそうな声が聞こえた。 「先生、お久しぶりです」 「ああ、久しぶりだね。さあ、入って入って」 「失礼します」 遥香は文学部教授の園山孝蔵(そのやまこうぞう)に手招きされて中に入ると、応接のソファに座った。 中は12畳くらいの広さで、教授の机の他は応接セットとその横には作業用の長机が置かれ、それ以外は本棚で占められている。 「えっと、コーヒーでいいか?それともお茶の方がいいかな?」 「コーヒーで大丈夫です」 教授は、作り置きのサーバーからカップにコーヒーを注ぐと、遥香の前に置いた。 「で、今日はどうしたんだい?」 「ちょっと相談したいことがあって」 「そうなの?何だろ?」 一見厳つい顔の園山教授だが、ちょっと子供っぽいところもあって、遥香の相談事に対してワクワクしている様子だった。 「えっと、もちろん、本業の方ではなくて……、あの先生の趣味の方で……」 「お!そうなのか!」 遥香の台詞に、教授は身を乗り出した。 園山教授は、文学部の教授として現代文学が専門なのに、なぜか、古文書が好きなので有名だった。 それも、霊や物の怪(もののけ)系の古文書が。 だから、今回の件も、園山教授なら何か分かるかもしれないと遥香は思ったのだ。 ちなみに、それなりに親しい感じは、そもそも遥香が園山ゼミ出身だからだった。 「で?どんな話だ?」 何度も言うが、園山教授は厳つい顔をしているが、その顔で満面の笑みで聞いた。 「あの、先生は『首』に(まつ)わる怪奇話は知っていますか?」 「首?」 「はい」 「首と言っても、たくさんあるが……、例えばどんな感じだ?」 遥香は、今度の事件の事を彼に話した。
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