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東武蔵大学は吉祥寺にあった。
遥香は、少し黄ばみ始めた風景の中、入り口の煉瓦造りの門を懐かしく見つめたが、今は感傷に浸っている場合ではない。
彼女は相談する人物の居るはずの研究室に向かった。
遥香は、少し強くなり始めた夕陽の光を手で遮りながら文学部棟に入ると、最上階である4階一番奥の、とある研究室のドアをノックした。
中から返事がして、遥香はドアを開けた。
「お?遥香君じゃないか!」
遥香が顔を覗かせると、すぐに嬉しそうな声が聞こえた。
「先生、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだね。さあ、入って入って」
「失礼します」
遥香は文学部教授の園山孝蔵に手招きされて中に入ると、応接のソファに座った。
中は12畳くらいの広さで、教授の机の他は応接セットとその横には作業用の長机が置かれ、それ以外は本棚で占められている。
「えっと、コーヒーでいいか?それともお茶の方がいいかな?」
「コーヒーで大丈夫です」
教授は、作り置きのサーバーからカップにコーヒーを注ぐと、遥香の前に置いた。
「で、今日はどうしたんだい?」
「ちょっと相談したいことがあって」
「そうなの?何だろ?」
一見厳つい顔の園山教授だが、ちょっと子供っぽいところもあって、遥香の相談事に対してワクワクしている様子だった。
「えっと、もちろん、本業の方ではなくて……、あの先生の趣味の方で……」
「お!そうなのか!」
遥香の台詞に、教授は身を乗り出した。
園山教授は、文学部の教授として現代文学が専門なのに、なぜか、古文書が好きなので有名だった。
それも、霊や物の怪系の古文書が。
だから、今回の件も、園山教授なら何か分かるかもしれないと遥香は思ったのだ。
ちなみに、それなりに親しい感じは、そもそも遥香が園山ゼミ出身だからだった。
「で?どんな話だ?」
何度も言うが、園山教授は厳つい顔をしているが、その顔で満面の笑みで聞いた。
「あの、先生は『首』に纏わる怪奇話は知っていますか?」
「首?」
「はい」
「首と言っても、たくさんあるが……、例えばどんな感じだ?」
遥香は、今度の事件の事を彼に話した。
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