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「天才的なメイクリストのまさかの裏の顔」だったり、「親子で猟奇的な犯行……止めることはできなかったのか」であったり、どこか見栄えを気にした文字が羅列された。
結局、海堂鈴江は逮捕され、その娘の美香は罪から逃れられないと踏んでの自殺だったのだろうとまとめられた。
大河は、黒沢美咲の遺体が高級マンションの一室から見つかった事実をテロップで何度見ても実感がわかなかった。また、あの上から目線の口調で自分の肩を叩いてくれるのではないかと思ってしまう。
彼女は全てを消し、全てを置いていった。おそらく、誰かに聞けば美咲との関係がどんなものであったかわかるだろう。でも、それを記憶として、自分の感覚に受け入れることはできない。
一層のこと、この事実さえも綺麗さっぱりと忘れ去りたいものだ。また、一からのスタートだと簡単にはいかないとわかっているけれど、彼女の消したものと置いていったものの重さを比べれば、その方法もありなのではないか。
大河はそんな現実から逃げるように自宅の玄関のドアを開けた。
◆
非日常はものの数日経ってしまえば、それが日常となってしまう。まさに、あの数日間は青天の霹靂ともいえることが起こりすぎた。そして、また終わりを告げたと思えた都市伝説は序章に過ぎなかったことを思い知ることとなる。
「まさか、こんなにも上手くいくとは思わなかったよ」
青年は誰に語りかけるわけでもない独り言を呟いた。風が逆立たせた髪の毛を揺らした。まだ、数日しか経っていないとはいえ、見慣れたこの街を見下ろす気分は感慨深いものだった。
「さて、次の街へと行こうか」
青年の声は静かに闇に溶け込んでいく。
人々は彼のことをNISEMONOと呼んだ。彼自身には実体がなく本当のところ寄生虫のように誰かの体に宿っては周囲の人間に影響を与える。
いわゆる、それはカリスマ性ともいえる輝かしいものであり、人々はそれに取り込まれてしまうのだ。そして、だんだんと自分が自分ではなくなり知らない誰かへと変化していく。
その過程は、アイデンティティの形成の過程とかなり類似しているようにも思えるが、全くといっていいほど違う。
そう彼らを表現するとすれば、まさに人食いといえるだろう。ただ、物理的な人食いではなく、体の中を蝕んでいくというものだ。そして、NISEMONOは食われて空っぽになったところに居座る。まるで、その人自身のように。
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