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髪を逆立てた青年はゆらゆらと歩き続けた。ときどき顔のパーツがバラバラに崩れたり、取れたりしていた。
「そろそろ、潮時かな」
取れた口を元ある場所につけて、青年は不気味に呟いた。
閑静な住宅街を抜け、山を越えて、気づけば、喧騒が広がる都会のど真ん中に立っていた。
時折、すれ違う人の肩にぶつかりながら、どこに向かうこともなく歩き進む。
たどたどしい足取りとは違って、視界の情報整理は機械のように瞬時に分析されていた。
青年は都会の喧騒に紛れて静かに呟く。
――見つけた。
今までの足取りが嘘だったかように、鋭いものに変わり、青年は黒髪の少女の元へと一直線に向かう。
少女は青年の存在に気づいてもなお、逃げようとはしなかった。まるで自分の宿命であるかのように受け入れていた。
青年はけたけたと笑ってから、手を差し伸べる。
「これであなたも変われます」
少女の目には輝きなどなく、あるのは闇だった。青年に意味のわからない言葉を投げかけられても、表情一つ変えることなく、そっと青年の手をとった。
すると、たちまち青年の手の温かみは失われ、魂が抜け落ちたように青年の体は前方へと崩れていった。
それでもなお、少女は驚く様子もなく、すっと青年の手を離した。
異変に気づいた周囲の人たちは、スマホを取り出し警察に電話をかけたり、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
少女の顔のパーツがバラバラに崩れていき、鼻は口と重なり、目は鼻の位置まで落ちていた。
「これが新しい体」
少女はぽつりとつぶやき、崩れた顔を一瞬で引き締め、後ろを振り向く。
力尽きた青年の周りに集まる野次馬を見て、少女は嘲笑い、不気味に呟いた。
――誰がHONNMONOなんだろうね?
少女はたどたどしい足取りで、人間社会へと紛れ込んでいった。
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