7人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
狐は冬眠しない。背中をなでるような優しい声には、呪文のようなものが込められていたのかもしれない。
「春になったら迎えに来るよ」
その言葉があるだけで、信じるに足りる。安心を得た狐は、ぶるりと尻尾を一振りすると、朱い光を放つ瞳をそっと閉じた。
夢の中に出てくるのは、二匹の白い蝶々。春の柔らかな風に乗り、共にひらひらと飛んでいる。一匹が花に乗ると、もう一匹も花に乗る。一匹が飛び立つと、もう一匹も追いかけるように飛び立つ。行く当てでもあったのだろうか。二匹は森の向こうに消えてしまい、夢の続きがどうなったか、狐の記憶には残らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!