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いい時間になったのに、妹は急に焦りのみえる表情でガサゴソ探し物をしている。
「どうしたの?出かけないの?」
瑠里に話しかけると頭巾を巻きながら足袋を買い忘れたと嘆いていた。
「もう黒の運動靴で良くない?私もそうするから」
「いや茜ちゃんはロングブーツで、私は足袋がいいんだけど…」
頭巾を被ると目しか出てないので誰だか分からないが、口元のマスクは飲み食い出来るよう外せる工夫がされていた。
「これ使う?田んぼに入る時にお婆ちゃんが使ってたやつ新品あるけど」
「……か、かたじけない!」
田植えの時に履く地下足袋は本気すぎだったが、瑠里はかなりお気に召したようだ。
職場までは徒歩5分なので、妹はそのままの格好で行く気満々だが、私は上に何か羽織ろうと薄手のジャケットを探していた。
「そんな長居はしないよ、食べてくじ引いたら帰るから」
「まぁそうだけど…」
暗黙の了解で『上着なんか着るな』オーラが出ていたのでブーツを履いて玄関に向かった。
母とイナリはお土産に期待を込めて見送りをしてくれ忍者二人は職場へ向かう。
助かる事に辺りは結構暗いしこれなら『変な人』と思われる心配もない。
妹は頭巾で顔はほぼ隠れているが、私は顔を出してる為かなり恥ずかしい。
「百合さん、瑠里さん」
声を掛けられ振り向くと、和音さんがクマの着ぐるみを着た姿で小走りに近づいてきた。
「ワオンさん、可愛い~!」
顔がくり抜かれた着ぐるみでなんだか馴染んでいるし、体型はスリムだが顔の上についたクマの耳がぬいぐるみ感をアップさせていた。
「ハロウィンに関連ないけどいいですかね?」
「忍者の方が関係ないから大丈夫ですよ、なんか心強くなりました」
三人で並ぶと少し安心出来るから不思議だ。
でも敷地内に入ると心配なんて全く必要ない事だと思い知らされた。
創業祭と書かれた大きな看板が正面入り口上に吊るされていて、真下にはコスプレ集団がザワザワとしている。
ドラキュラとかカボチャの覆面を被った男性、姫や魔女にウサ耳に猫耳等、色んな姿に扮した人達が集まっていた。
ただ驚いたのは忍者の格好をした人が意外にも多かった事だ。
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